「僕たちは週末レジャーを楽しみにやってきたのさ。
ここのスキー場はすげえな、何たって西洋とは縁もゆかりも無いような牧歌的な景色の中に突如西洋風のバブリーな佇まいのでっかい館が建ってるんだぜ。」 一同に冷め冷めとした予感が走る。
「同胞殿、どうやら安比の中央版といった感じでござるな。」
「同感じゃよ。安比は悪のリゾート施設ではあるが、ゲレンデは良好で可もなく不可もなくといったところであるから良いようなものの、ここは中央の息がそこかしこに吹きかかっているかのようじゃて。この冒険は果たして失敗だったのであろうか…そのうちわかろうて。」
「遍歴の騎士というものは姫への慎ましくも熱き思いがあるならば、いかなる艱難辛苦も喜んで受けいれるというもの。流石は同胞殿、騎士の鑑です。」
「ドラゴン殿こそ。騎士の模範を示すためにも初心者である異国姫の面倒を見てはくれまいか?」
「いいえ、あのお方が同胞殿の思い姫であってみれば、拙者が庇護するのは筋違いでござる。拙者はいかにも田舎育ちのがさつ者故、ここは謹んで辞退する所存で候。」
と、とにかく早く滑りたいオレはもっともな事を言い、同胞に姫を押し付けたのであった。
兄弟は自分のこととなると突然饒舌になるオレに驚嘆していた。
「口上手いですね。」
「この三寸不爛の舌を持ってすれば白を黒と言わせることも可能です。」
…と先日の酒の席での失策をすっかり忘れていたお茶目なオレ。
このように機知に富んだ会話を交わしながら、不安を一時的に忘れエントリー。
あっという間に9000円消費! |
▲グル、髭を落とすの図
ヘルメットを被った客の多さと、ストレッチを入念に行う客の多さに一時的に忘れた不安は別のものに形を変え我が胸に募る。兄弟も同様であった。
同胞はしたり顔。余裕綽々。
姫は準備に手間取りそれどころではない。何とも可憐なものである。
「姫、我ら男衆は準備できましたゆえ、何なりと。」 |
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やんごとなき姫のお許しを得てようやく一行は籠の中へ入った。籠のレギュレーションは平民も王侯貴族も分け隔てなく同乗するのが決まりのようで、呑百姓が二人乗り込んできたが礼を欠くことがなかったので、我々も当地が定めたレギュレーションを遵守した。
かくして着いた山頂付近。
吹雪に視界は奪われ、籠から眺めた段で急斜面は避けて通れないし、オレも兄弟も初心者。喜ぶのは中級以上の腕を持つ同胞だけ。姫はというと…早くもそのやんごとなき体を雪原に打ちつけあそばれていた。
しかし、これは邪悪な魔法使いの陰謀の及ばぬ世界での困難であって厳しくも耐えられる類の試練。
それにしても日本人のボーダーのレベルも大したもんだ。
ヒゲを剃った麻原章晃…否、今井メロなんてのもオリンピックに行けるのも道理という感じがした。つまり底辺が広がっているということだ。
先が見えぬ状態で姫も兄弟も見失ってしまった…ミニスキーであればこのような状態も望むところなのだがボードとあってはそうもいかない。早くシルバーサーファー(MARVEL
COMICS)のようにボードと一心同体になりたいもんだが、オレはコズミックパワーを持っていないのでひたすら練習するしかないようだ。
何とか麓まで降り仲間の到着を待つオレ。
兄弟をいつの間にか追い越していた。
まあ、一応オレ雪国育ちだもんね…その雪国が嫌で東京に逃げてきたクチだが。
長らく待って姫と同胞が来た。
「同胞殿、ここは上級者向けのようでござる。同胞殿はともかく、ここでは姫が難儀するばかりでありますれば、いっそ籠に乗り下まで降りるのが賢明かと…まずは姫のことを思 |